立 川 ネ ワー ル法 界マンダラ 図像 資 料
ネ ワール法 界マンダラ 図像 資料 立
Materials
川
武
蔵*
for Iconographic
Newar
Studies
Dharmadhatu
Musashi
of
Mandalas
Tachikawa
ネ パ ー ル の カ トマ ン ドゥ盆 地Y'は 今 日,ネ ワ ー ル人 の 間 に 密 教 の 要 素 を多 分 に 含 む 大乗 仏 教 が見 られ る。 ネ ワ ール仏 教 には 数 多 くの マ ン ダ ラの 作 例 が残 る一 方 で,今
も伝 統 に従 ってマンダラ が描 か れ て い る。 ネ ワ ール 仏教 の寺 院境
内 な どに は 銅 な どの金 属 や 石 の 円盤 の 上 に 線 刻 さ れ た マ ン ダ ラ図 が 見 ら れ る が,こ の 様 式 は ネ ワー ル特 有 の もの と思 わ れ る。 ネ ワー ル仏 教マンダラ の 内,
ほっかい こ し ざい
も っ と も よ く知 られ た もの の一 つ に,法 界 語 自在 文 殊 の マ ン ダ ラが あ る。 本 稿 は,カトマンドゥ
盆 地 内 に お い て 有 名 な法 界 マ ン ダ ラ の作 例 と して バ ク ・バ
ハ ー ル寺 院,ノ
・バ ハ ー ル寺 院,ブ
・バ ハ ール寺 院 の マ ンダ ラ を取 りあ げ,そ
の線 刻 され た 図 像 を 大乗 仏 教 図像 学 の 基礎 資 料 と して提 供 しよ うとす る もの で あ る。
The present paper is intended to furnish materials studies
of the Newar
Valley.
A large number of mandalas
are installed
at various
dhist temple,or
Buddhist
mandalas
found
places, such as the court yard of a Newar Bud-
at a crossroads
disappeared Buddhist
tradition
in a town.
century
A.D..
found in the Kathmandu
to those of the Indian Buddhist mandalas Nispannayogava1
Buddhism
together with its
from India, before Indian Mahayana
in the thirteenth
mandalas
in the Kathmandu
depicted on copper or stone plates
The Newar people inherited Mahayana iconographic
for iconographic
or the Vajravali.
The varieties
Buddhism of Newar
Valley are almost identical
explained in texts, such as the
Even today Newar
painters
con-
*国 立民族学博物館民族社会研究部 Key Words キー ワー
: Newar ushri ド:ネ
Buddhism,
Kathmandu,
ワ ー ル 仏 教,カトマンドゥ,マ
mandala,
Dharmadhatu
Mandala,
Manj
ン ダ ラ,法
界マンダラ,文
殊
699
国立民族学博物館研究報告 23巻4号
tinue drawing mandalas according to their tradition, which is very similar to the Indian one. The Dharmadhatuvagisvara Manjusri Mandala is one of the most well-known manadalas in the Kathmandu Valley. In this paper we will consider the Dharmadhatuvagisvara (or Dharmadhatu) mandalas of three Newar Buddhist temples in Patan City, namely, the Haka Bahal, the Na Bahal, and the Bu Bahal. The images of the deities depicted on these three mandalas are iconographically in accordance with the description given in the Dharmadhatu Chapter of the Nispannayogava1i, with some exceptions.
1.カトマンドゥ
盆 地 に お け る法界 マ ソ ダ
3.バ
ク ・バ ハ ー ル の 法 界 マ ン ダ ラ
ラ資 料
4.ノ
・バ ハ ー ル の 法 界 マ ン ダ ラ
2.法
5.ブ
・バ ハ ー ル の 法 界 マ ン ダ ラ
界 マ ン ダ ラの構 造
1.カトマンドゥ
盆 地 に お け る法 界マンダラ 資料
ネ パ ー ル のカトマンドゥ 盆 地 に は イ ン ドか ら伝 え られ た大 乗 仏教 が残 ってお り}こ の 大乗 仏 教 は密 教(タ
ソ ト リズ ム)の 要 素 を 多 分 に 含 ん で い る。 この仏 教 密 教 は カ ト
マ ン ドゥ盆 地 に紀 元4,5世 あ るが,ネ
紀 か ら住 ん でい るネ ワー ル人 の間 に流 布 して い る もの で
ワール 仏 教 徒 た ち は 自分 た ち の仏 教 を 「金 剛 乗 」(ヴ ァジ ュ ラ ・ヤ ーナ)
と呼 ん で い る。 この 場 合 の 「金 剛 乗」 とは仏 教 密 教 とい うほ ど の意 味 で あ って,ラ
ダ
ック地方,中 央 チ ベ ッ ト,ブ ータ ンに伝 え られ た 仏 教 密教 と本 質 的 に 異 な る もの では な い 。 チ ベ ッ ト仏 教 で は 「金 剛 乗 」(ド ル ジ ェ ・テ クパ)と は 仏 教 密 教 一 般 を 意 味 す る。 カ トマ ン ドゥ盆 地 に は,仏 教 密 教 の儀 礼 や 瞑 想 の 補 助手 段 と して のマンダラ が 数 多 く残 る と と もに今 もな お制 作 され て い る。マンダラ は,原 初 の形態 は別 に して,今 で は平 面 に描 かれ る もの と立 体 に作 られ る もの との 二種 あ るが,カ
日
トマ フ ドゥ盆 地 で
は 銅 や真 鍮 あ る いは 石 の 盤 にマンダラ 図 を線 刻 し,そ の盤 を 円筒,六 角筒,八 角 筒 等 の上 に乗 せ た か た ちの マ ン ダ ラが数 多 く制 作 され て きた。 この 円筒,六 角筒,入 角 筒 等 は 須 弥 山(ス
メール 山)を か た ち ど った須 弥 山台 で あ り,北 京 の 紫禁 城 な どに見 る
ことが で きる。 しか し,須 弥 山台 の上 に線 刻 した平 面マンダラ を乗 せ た 形 式 の もの は, 700
立 川 ネ ワ ール 法界 マ ン ダ ラ図 像 資料
カ トマ ン ドゥ盆 地 以外 の地 域 に あ る との報 告 は な く,盆 地 に特 有 の もの と思 わ れ る。 カ トマ ン ドゥ盆地 の須 弥 山台 上 の マ ン ダ ラは 寺 院 の 境 内や 街 角 に 置 かれ て お り,そ の数 は数 百 に のぼ る と推 定 され る。ほ とん どが 直径 数 十 セ ソチ メー トルの もの で あ り, その程 度 の大 き さの マ ン ダ ラでは 個 々の尊 格 のす が た は刻 まれ てお らず,諸 尊 が ○ 印 等 で 表現 され た り,各 尊 格 の 「部 屋 」 の み が描 か れ てい る。 しか し,1メ
ー トル に近
い,あ るい は それ 以 上 の 大 きさ のマンダラ 図 を刻 んだ 銅盤 あ る いは 石 盤 が盆 地 に はい くつ か 残 され てお り,そ れ らに は,マンダラ
の諸 尊 す べ て で は な い に して も数 多 くの
尊 格 の 図 像 が描 か れ て お り,ネ ワー ル仏 教 パ ソテ オ ンの図 像学 的 資 料 とな る。 イ ン ド,ネ パ ール,チ ベ ッ ト等 に おけ る仏教 密 教 に おい て は,パ
ソテオ ンの 図像 学
的 シ ス テ ムが確 立 され て お り,密 教 の儀 礼 ・実践 に際 して 僧 あ るい は実 践 者 た ち は パ ンテ オ ソの 各 メ ソパ ーす な わ ち 各hの 尊 格 の 図 像学 的特 徴 を憶xて 例 えば,各
い る必 要 が あ る。
々の尊 格 が どの よ うな シ ソボル を 持 って い るか が 密教 の儀 礼 ・実 践 で は重
要 で あ るか らだ。 ㌧ カトマンドゥ 盆 地 の寺 院 の境 内 な どに置 か れ て い る 「マンダラ台 」(須 弥 山 台 の上 ほっかい こ じざい
に 置 か れ たマンダラ
盤)は,圧
倒 的 に 法 界 語 自 在 文 殊マンダラ(法
い 。 そ の 中 で は 特 に 五 つ の 法 界マンダラ
界マンダラ)が
多
が 図 像 学 的 お よ び 歴 史 的 に 重 要 と思 わ れ る。
第 一 に は ス ヴ ァヤ ン ブ ー ナ ー ト仏 塔 の 東 側 に あ る プ ラ タ ー パ マ ッ ラ 王 の 命 に よ っ て 製 作 され た も の(立 川1989:16),第 ル)寺
院1)境 内 の も の(立
二 に は パ タ ソ市 の バ ク ・バ ハ ー ル(バ
川1989:14),第
四 に ブ ・バ ハ ー ル 寺 院3)境 内 の も の(立 寺 院 境 内 の 石 製マンダラ4)(立
く,こ
川1989:18),第
川1989:16)で
像 学 的 価 値 も 高 い と 思 わ れ るが,銅
カ ー ・バ ・・一
三 に ノ ・バ バ ー ル 寺 院2)境 内 の も の,第 五 に ス ヴ ァヤ ソブ ー ナ ー ト
あ る。 第 一 の も の が も っ と も 古 く,図
版 の 上 に 描 か れ た 図 像 の 磨 滅 した 部 分 も少 な くな
の マ ン ダ ラ の 図 像 学 的 考 察 は 次 回 に 侯 ち た い 。 第 五 のマンダラ
で は尊 格 は人 形
の 図 像 で は な く,樹 や 花 な ど の シ ソ ボ ル に よ っ て 描 か れ て い る。 こ の マ ン ダ ラ に 関 す る研 究 も 次 の 発 表 の 機 会 を 侯 ち,今
回 は 第 二,第
三 お よび 第 四 の マ ン ダ ラ の 考 察 に 限
定 す る こ とに し た い 。 第 二,三,四
の マ ン ダ ラ は 諸 尊 の 配 置 や 図 像 等 に 関 し て 多 くの 共 通 点 が あ る 。 そ れ
ぞ れ の 尊 格 の 図 像 が4セ
ソ チ メ ー トル に 満 た な い ほ ど 小 さ い 場 合 も あ る が,む
しろ そ
れ だ か ら こそ 図 像 学 的 に は も っ と も重 要 な 特 徴 の み が 彫 り刻 ま れ て い る と考 え る こ と が で き る。 現 在,わ
れ わ れ に は ネ ワ ー ル 密 教 の パ ン テ オ ン に 関 す る 満 足 す べ き つ
ま り使 用 に 耐 え る 図 像 集 が 残 さ れ て い な い 。 本 研 究 の 目指 す と こ ろ は,ネ 密 教 の 図 像 集 の 作 成 で あ る 。 法 界マンダラ
は,ネ
ワール
ワ ー ル 密 教 に も っ と も重 要 な マ ソ ダ 701
国立民族学博物館研究報告 23巻4号
ラで あ る と とも に,約220尊
とい う数 多 くの構 成 員 を有 す るマンダラ で あ り,図 像集
作成 のた め の 基礎 資 料 と して 最適 で あ る。 また か の三 つ のマンダラ の レプ リカが 国 立 民 族学 博 物 館 の 南 ア ジ ア常 設 展示 場 で 展 示 され て い る5)0こ れ らは,カトマンドゥ
盆 地 でそ れ ぞ れ のマンダラ 図 を拓 本 に取 り,
パ タ ン市 の工 人 た ち に依 頼 して約 一 年 間 か け て1996年 完 成 した もの で あ る。実 際 に 線 刻 す るに あ た って 「そ れ ぞ れ の寺 院 でマンダラ を 見 て も は っ き りしなか った部 分 は, ネ ワ ール の画 家 ガ ウ タ ム ・R・ バ ジ ュ ラ ー チ ャー ル ヤに 依 頼 して 絵 を 描 い て も ら っ た」 と完 成 後 に 聞 いた 。 本研 究 に は,カ
トマ ン ドゥ盆 地 の マ ン ダ ラ図 と国 立民 族 学 博
物 館 の レプ リカ の 図 と の比較 は含 まれ て い ない 。 レプ リカ とい え,現 在 の ネ ワール の 工 人 が 拓 本 と実 物 のマンダラ 図 を どの よ うに 読 み こんだ か は それ 自体 図 像学 の対 象 と な り得 る と思 われ るが,こ の レプ リカ の考 察 も別 の機 会 に侯 ち た い。
2.法
界 マ ン ダ ラ の構 造
12世 紀 頃 の 編 纂 と 推 定 さ れ る サ ン ス ク リ ッ トで 書 か れ たマンダラ ヨ ー ガ の 環 』 は,ネ
の 第21章 が 法 界 語 自 在 文 殊 マ ン ダ ラ(法
界マンダラ)の
を 説 明 して い る 。 この 章 の テ キ ス ト,和 訳,パ ジ等 に 関 して は,す
で に(長
こ こ で 扱 う法 界マンダラ 第21章
集成
『完 成 せ る
ワール仏 教 僧 た ち の マ ン ダ ラに関 す る基礎 文 献 の一 つ で あ る。 こ 構 造 や パ ソ テ オ ン の メ ソバ ー
ソテ オ ソ の そ れ ぞ れ の メ ソバ ー の イ メ ー
野 ・立 川1989)に
発 表 した。
の 諸 尊 の 名 称 と 位 置 は 基 本 的 に はr完
と一 致 す る 。 した が って,本
論 文 で は(長
名 と位 置 に 基 づ い て 議 論 を 進 め た い 。 以 下 に,法
成 せ る ヨー ガ の環 』
野 ・立 川1989:48-61)に
記 した 尊
界 マ ン ダ ラ の 構i成 メ ンバ ー の 日本 名
とサ ソス ク リ ッ ト名 の み を 挙 げ て お き た い 。
表1 法 界 マ ン ダ ラの諸 尊 番 号 サ ソス ク リ ッ ト
1. Manjughosa 2. 3. 4. 5. 6. 7. XO2
(Dharmadhatuvagiisvara) Mahosnisa Sitatapatrosnisa Tejorasyusnisa Vijayosnisa Vikiranosnisa Udgatosnisa
漢訳/仮 名表記 [法 界語 自在]文 殊 (マ ン ジ ュゴ ー シ ヤ) 大仏 頂(だ
いぶ っち ょ う)
白傘 蓋 仏 頂(び 光聚 仏 頂 最勝 仏 頂 捨 除 仏頂 高仏 頂
ゃ くさ んが い ぶ っち ょ う)
立 川 ネ ワール 法 界マンダラ 図像 資 料
8. Mahodgatosnisa
高大仏頂
9. Jayosnisa
勝仏頂
10. Aksobhya
阿 閥(あ
11. Vajrasattva
金 剛薩 遜(こ ん こ うさ った)
しゅ く)
12. Vajraraja
金 剛 王(こ ん こ うお う)
13. Vajraraga
金 剛 愛(こ ん こ うあ い)
14. Vajrasadhu
金 剛 喜(こ ん こ うき)
15. Ratnasambhava
宝 生(ほ
16. Vajraratna
金 剛 宝(こ ん こ うほ う)
17. Vajrateja
金 剛 光(こ ん こ うこ う)
18. Vajraketu
金 剛 憧(こ ん こ うど う)
19. Vajrahasa
金 剛 笑(こ ん こ う し ょ う)
う し ょ う)
20. Amitabha
阿弥 陀(あ み だ)
21. Vajradharma
金 剛 法(こ ん こ うほ う)
22. Vajratiksna
金 剛 利(こ ん こ う り)
23. Vajrahetu
金 剛 因(こ ん こ うい ん)
24. Vajrabhasa
金 剛 語(こ ん こ うこ)
25. Amoghasiddhi
不 空 成就(ふ
26. Vajrakarma
金 剛 業(こ ん ご うご う)
27. Vajraraksa
金 剛 護(こ ん こ うこ)
28. Vajrayaksa
金 剛 牙(こ ん こ うが)
29. Vajrasandhi 30. Locana
金 剛 拳(こ ん こ うけ ん) ロー チ ャナ ー(仏 眼)
31. Mamaki
マ_マ キ ー(韓
表)
32. Pandara
パ ー ン ダ ラ ー(白
衣)
く うじ ょう じゅ)
た ら
33. Tara
タ ー ラー(多 羅)
34. Vajrainku§a
金 剛鉤(こ ん こ う こ う)
35. Vajrapaga
金 剛索(こ ん こ うさ く)
36. Vajrasphota
金 剛 錬(こ ん こ う さ)
37. Vajravesa
金 剛 鈴(こ ん こ うれ い)
38. Adhimukticarya
信 解 行 地(し ん げ ぎ ょう じ)
39. Pramudita
歓 喜 地(か ん ぎ じ)
40. Vimala
離 垢 地(り
く じ)
41. Prabhäkari
発 光 地(ほ
っこ う じ)
42. Arcismati
焔 慧 地(え んね じ)
43. Sudurjaya
難 勝 地(な ん し ょ う じ)
44. Abhimukhi
現 前 地(げ んぜ ん じ)
45. Durangama
遠 行 地(お ん ぎ ょう じ)
46. Acala
不 動 地(ふ
47. Sadhumati
善 慧 地(-Lん え じ)
48. Dharmamegha
法 雲 地(ほ
49. Samantaprabha
善 光 地(ぜ ん こ うじ)
50. Ratnapadmaparamita
宝 蓮 華 波羅 蜜(ほ
51. Danaparamita
布施波羅蜜
ど う じ)
う うん じ) うれ ん げ は らみ つ)
703
国立民族学博物館研究報告 23巻4号
52. Silaparamita
持戒波羅蜜
53, Ksantiparamita
忍 辱 波 羅 蜜(に んに くは らみ つ)
54. Viryaparamita
精進波羅蜜
55. Dhyanaparamita
禅定波羅蜜
56. Prajnaparamita
般若波羅蜜
57. Upayaparamita
方便波羅蜜
58. Pranidhanaparamita
願 波羅 蜜
59. Balaparamita
力波 羅 蜜
60. Jnanaparamita
智 波羅 蜜
61. Vajrakarmaparamita
金 剛業 波 羅 蜜
62. Ayurvaaita
命 自在(み
63. Cittavaaita
心 自在
64. Pariskaravaaita
財 自在
65. Karmavaaita
業 自在
66. Upapattivaaita
生 自在
67. Rddhivaita
神 通 自在
68. Adhimuktivaaita
勝 解 自在
69. Pranidhanavaaita
願 自在
70. Jnanavaaita
智 自在
71. Dharmavaaita
法 自在
72. Tathata
如 是 女(に
73. Buddhabodhi
仏 菩 提 女(ぶ つ ぼ だ い に ょ)
74. Vasumati
ヴ ァス マテ ィー
ょ うは らみ つ)
ょぜ に ょ)
75. Ratnolka
ラ トノ ール カ ー
76. Usnisavijaya
仏頂 尊勝(ぶ
77. Marici
摩利 支(ま
78. Parnaaabari
葉衣(よ
79. Janguli
ジ ャー ング リー(常 蓼利)
80. Anantamukha 81. Cunda
無量門 e'1(じ
82. Prajnavardhant
智 慧 増長(ち
83. Sarvakarmavaranaviaodhani
除 一 切 業障
84. Aksayajfianakaranda
無尽智筐
85. Sarvabuddhadharmakoaavati
持 一 切 仏 庫(じ い っさい ぶ っ こ)
86. Dharmapratisamvit
法 無 磯(ほ
87. Arthapratisamvit
義 無 磯(ぎ む げ)
88. Niruktipratisamvit
詞 無F(し
89. Pratibhanapratisamvit
弁 無 磯(べ ん む げ)
90. Lasya
喜 女(き に ょ)
91. Maid
覧 女(ま ん に ょ)
92. Gitä
歌 女(か に ょ)
93. Nrtya
舞 女(ぶ に よ)
94. Samantabhadra
普賢(ふ げ ん)
95. Aksayamati
無 尽慧(む
704
っち ょうそ ん し ょ う) りして ん)
うえ)
ゅん て い) えぞ うち ょう)
うむ げ) む げ)
じん え)
立 川 ネ ワー ル法 界マンダラ 図 像 資 料
96. 97. 98. 99. 100. 101. 102. 103. 104. 105. 106. 107. 108. 109. 110. 111. 112. 113. 114. 115. 116. 117. 118. 119. 120. 121. 122. 123. 124. 125. 126. 127. 128. 129. 130. 131. 132. 133. 134. 135. 136. 137. 138. 139.
Ksitigarbha Aka§agarbha Gaganaganja Ratnapani Sagaramati Vajragarbha Avalokite§vara Mahasthamaprapta Candraprabha Jaliniprabha Amitaprabha Pratibhanakuta Sarva§okatamonirghatamani Sarvanivaranaviskambhin Yamantaka Prajiiantaka Padmantaka Vighnantaka Trailokyavijaya Vaj raj valanalarka Herukavajra Parama§va Usnisacakravartin Sumbharaj a Puspa Dhupa Dipa Gandha Vajrarupa Vajra§abda Vajrarasa Vajraspar§a Indra Yama Varuna Kubera I§ana Agni Nairrti Vayu Brahman Visnu Mahe§vara (= Siva) Karttikeya (= Kumara)
ノ
地蔵 虚 空 蔵(こ
く うぞ う)
虚 空 庫(こ
く う こ)
宝手 海慧 金剛蔵 観 自在 勢 至(せ
い し)
月 光(が
っ こ う)
網 明 無量光 弁積 除 憂 闇(じ
ょ ゆ う あ ん)
除 蓋 障(じ
ょが い し ょ う)
ヤ マ ー ソ タ カ(閻
曼 徳 迦)
プ ラジ ュニ ャ ー ン タカ バ ドマ ー ン タ カ ヴ ィ グナ ー ソ タ カ ト ラ イ ロ ー キ ヤ ヴ ィ ジ ャ ヤ(降
三 世)
ヴ ァジ ュラ ジ ュヴ ァ ー ラー ナ ラ ール カ ヘ ー ル カ ヴ ァ ジ ュ ラ ・ パ ラマ ー シ ュヴ ァ ウ シ ュ ニ ー シ ャチ ャ ク ラ ヴ ァ ル テ ィ ン ス ソノミラ ー ジ ャ 華 女(け
に ょ)
香 女(こ
う に ょ)
燈 女(と
う に ょ)
塗 香 女(ず
こ う に ょ)
金 剛 色 女(こ
ん こ う し き に ょ)
金 剛 声 女(こ
ん こ う し ょ うに ょ)
金 剛 味 女(こ
ん こ う み に ょ)
金 剛 触 女(こ
ん こ う そ くに ょ)
帝 釈 天(た 焔 摩(え
い し ゃ く て ん) ん ま)
水天 多 聞 天(た
も ん て ん)
伊 舎 那 天(い
し ゃ な て ん)
火天 羅 刹 天(ら
せ つ て ん)
風天 梵 天(ぼ
ん て ん)
毘 紐(び
ち ゅ う)
マ ヘ ー シ ュ ヴ ァ ラ(=シ
ヴ ァ)
カ ー ル テ ィ ケ ー ヤ(=ク
マ ー ラ)
705
国立民族学博物館研究報告 23巻4号
140. Brahmani
フ フフ マ ー ニー
141. Rudrani
ノレ ド ラ ー ニ ー
142. Vaisnavi
ヴ ァイ シ ュ ナ ヴ ィー
143. Kaumari
カ ウマ ー リー
144. Indrani
イ ン ドラー ニ ー
145. Varahi
ヴ ァー ラー ヒー
146. Camunda
チ ャ ー ム ソダ ー
147. Bhrngi
ブ リ ソギ ー
148. Ganapati
ガ ナパ テ ィ
149. Mahakala
マハーカーラ
150. Nandikesvara
ナ ンデ ィケ ー シ ュ ヴ ァラ
151. Aditya
日天
152. Candra
月天
153. Mangala
火星
154. Budha
水星
155. Brhaspati
木星
156. gukra
金星
157. Sanai§cara
土星
158. Rahu
ラー フ
159. Ketu
ケ ー トゥ
160. Balabhadra
バ ラ バ ドラ
161. Jayakara
ジ ャヤ カ ラ
162. Madhukara
マ ドゥカ ラ
163. Vasanta
ヴ ァサ ン タ
164. Ananta
アナソタ
165. Vasuki
ヴ ァー スキ
166. Taksaka
タ ク シャ カ
167. Karkotaka
カル コー タ カ
168. Padma
バ ドマ
169. Mahapadma
マ ハ ー ノ0ド マ
170. gankhapala
シ ャ ソカ パ ー ラ
171. Kulika
ク リ カ
,
172. Vemacitrin
ヴ ェ ーマ チ トリン
173. Balin
バ リソ
174. Plahlada
プ ラフ ラ ー ダ
175. Vairocana
ヴ ァ イR一
176. Garudendra
ガ ル デ ー ソ ドラ
177. Drumakinnararaj endra
チ ャナ
ド ゥ ル マ キ ソ ナ ラ ラ ー ジ ェ ー ソ ドラ
178. Pancasikha
パ ンチ ャシ カ 、
179. Sarvarthasiddha
サ ル ヴ ァール タ シ ヅ ダ
180. Purnabhadra
プ ー ル ナ バ ドラ
181. Manibhadra
マ ー ニ バ ドラ
182. Dhanada
ダナダ
183. Vaisravana
ヴ ァイ シ ュ ラ ヴ ァナ
706
立 川 ネ ワ ール 法 界マンダラ 図 像 資 料
184. 185. 186. 187. 188. 189. 190. 191. 192. 193. 194. 195. 196. 197. 198. 199. 200. 201. 202. 203. 204. 205. 206. 207. 208. 209. 210. 211. 212. 213. 214. 215. 216. 217. 218. 219. 220.
Civikundalin Kelimalin
チ ヴ ィク ソ ダ リ ン
Sukhendra Calendra Hariti Asvini Bharani Krttika Rohini Mrga§ira Ardra Punarvasu Pusya Aslesa (A§lesa) Magha Purvaphalguni Uttaraphalguni Hasta Citra Svati Visakha Anuradha Jyestha Mula Purvasadha
ス ケ ー γ ドラ
ケ ー リマ ー リン チ ャ レー ソ ドラ ハ ー リーテ ィー(鬼 子 母神)
ク
し ゅ く)
易 宿(ぽ
うし ゅ く)
砦 宿(し
し ゅ く)
参 宿(し ん し ゅ く) 井 宿(せ い し ゅ く) 鬼宿(き
しゅ く)
柳 宿(り
ゅ うし ゅ く)
星 宿(せ い し ゅ く) 張宿 翼宿 珍 宿(し ん しゅ く) 角宿 充 宿(こ
うし ゅ く)
氏 宿(て い しゅ く) 房宿 心宿 尾宿 箕 宿(き
しゅ く)
斗宿 女 宿(じ
ょ しゅ く)
虚 宿(き
ょ しゅ く)
危宿 室宿 壁宿 奎 宿(け い しゅ く) 牛 宿(ぎ
ゅ う しゅ く)
金 剛 鉤(こ ん こ うこつ) 金 剛 索(こ ん こ うさ く) 金 剛 錬(こ ん こ うさ) 金 剛 鈴(こ ん こ うれ い)
・バ ハ ー ル の 法 界マンダラ
バ ク ・バ ハ ー ル の 法 界 マ ン ダ ラ は,直 ル 暦1118年(西
う し ゅ く)
胃宿(い
畢 宿(ひ つ し ゅ く)
Uttarasadha Sravana Dhanistha Satabhisa Purvabhadrapada Uttarabhadrapada Revati Abhijit Vajrankusa Vajrapasa Vajrasphota Vajravesa
3.バ
婁 宿(ろ
暦1898年)に
径100cm,金
メ ッキ,銅
製 作 さ れ た と い う銘 がマンダラ
製 で あ る。 ネ ワ ー
盤 の 「腹 」 の 部 分 に 残 っ
707
国立民族学博物館研究報告 23巻4号 て い る。 バ ク ・バ ハ ー ル の 法 界 マ ン ダ ラ の 第 一 重 に は,中
尊 で あ る 法 界 語 自在 文 殊(1)の
四 方 に 四 仏(阿
四 妃(阿
閾10,宝
生15,阿
宝 生 の 妃 マ ー マ キ ー31,阿
弥 陀20,不
空25)と
閥 の 妃 ロ ー チ ャ ナ ー30,
弥 陀 の 妃 パ ー ソ ダ ラ ー-32,不 空 の 妃 タ ー ラ ー33)が
阿 閥 か ら タ ー ラ ー ま で の8尊
い る。
は それ ぞれ 中 尊 の文 殊 に向 か って い る。 中尊 の文 殊 お よ
び そ の 周 囲 に い る 四 仏 の 図 像 学 的 特 徴 が 『完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 の 「法 界マンダラ
の
章 」の 文 殊 お よび 四 仏 の 説 明 に お お よ そ 一 致 す る こ と は 他 の と こ ろ で す で に 述 べ た(立 川1989:16-17)。
第 一 重 に は こ れ ら の9尊
が 描 か れ て い る の み で あ る が,r完
成せ る
ぶっ
ヨ ー ガ の 環 』 に 述 べ ら れ る 法 界マンダラ(図1)に あ っ て は 文 殊(1)の 周 囲 の八 仏 ちょう 頂(2∼9),四 仏 そ れ ぞ れ の 周 囲 に 四 人 ず つ い る 十 六 菩 薩(11∼14,16∼19,21∼ 24,26∼29)お
よび 四 門 衛 と し て の 四 摂 菩 薩(34∼37)が
ノ ・バ ハ ー ル の 法 界マンダラ
い る 。 後 に 考 察 す る よ うに,
で は 第 一 重 の 四 門 は 描 か れ て い る が,こ
の バ ク ・バ ハ ー
ル の法 界 マ ンダ ラ の第一 重 で は四 門 は描 かれ て いな い 。 バ ク ・バ ハ ー ル の こ のマンダラ
で はr完
成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 の 法 界マンダラ(図1)
の 第 二 重 ま で を 第 一 重 と し て 描 い て い る と考 え る こ と も で き る か も しれ な い 。 後 に ブ ・バ ハ ー ル の 考 察 に よ っ て こ の よ うな 想 定 は ほ とん ど 意 味 を 持 た な い こ とが 明 ら か と な る 。 しか し,バ
ク ・バ ハ ー ル のマンダラ
を 三 重 構 造 の も の と考 え な い 場 合 に は,
ど の よ うな 問 題 が 生 ず る か を 見 て お く こ と は 有 益 で あ ろ う。 も し も バ ク ・バ ハ ー ル が 三 重 構 造 で は な く四 重 構 造 で あ れ ぽ,バ ン ダ ラ(図2-3)のHE2(Hは を,Wは
西 を, Nは
ク ・バ ハ ー ル の マ
バ ク ・パ ・・一 ル を, Eは 東 を 意 味 す る 。 以 下Sは 北 を 意 味 す る), HS2, HW2, HN2の
三 重 構 造 で あ る と 考 え る な ら ば,HE1, え る こ と もで き る 。 しか し,こ
HSI, HW1, HN1を
南
比 定 が 困 難 とな る。 一 方, 四 摂 菩 薩(34∼37)と
考
の 場 合 に は 十 二 地,十
二 波 羅 蜜 等 の い る回 廊 の外 側 の
四 門 に 四 摂 菩 薩 が 配 置 さ れ る こ と に な る 。 これ はr完
成せ る ヨー ガの環 』 の マ ン ダ ラ
の 諸 尊 の 配 置 と大 き く異 な る こ と に な る 。 と も あ れ,r完
成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 のマンダラ
う 。 こ の 部 分 で は,十 (86∼89)お
二 地,十
二 波 羅 蜜,十
の第 二 重 に対 応 す る部 分 を 見 て み よ 二 自 在,十
二 陀 羅 尼,四
門 の四無 磯
よび 四 隅 の 四 供 養 女 が 描 か れ て い る 筈 で あ る。 しか し,各 尊 の 入 る べ き
部 屋 の 数 は 四 つ 不 足 して い る 。 十 二 地,十
二 波 羅 蜜 等 の 入 るべ き部 屋 が 十 二 あ り,四
隅 そ れ ぞ れY'は 供 養 女 が 入 る 部 屋 が 二 つ 必 要 な の で そ れ ぞ れ の 回 廊 に は 十 四 の 部 屋 が あ るべ き で あ る。 しか し,実
際 に は 部 屋 の 数 は 一 辺 に 十 三 で あ る。 した が っ て,一
辺
の 回 廊 に は 十 二 地 と次 の 十 二 波 羅 蜜 の 第 一 が 配 置 さ れ て い る と考 え る べ き で あ ろ う。 cos
立 川 ネ ワー ル法 界マンダラ 図 像 資 料
す る と,四
供養 女 は 略 され て い る こ とに な る。
十 二 地,十
二 波 羅 蜜 の 部 屋 の 並 び の 外 側 に あ る 四 門 は,バ
で は 第 一 重 の 四 門(HE1,
HS1, HWI,
参 照)。 こ の 四 門 の 中 の 尊 像 はr完 な の で あ る が,バ ら ぽ,も
HN1)で
あ る か の よ う に 描 か れ て い る(図3
成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 に 従 う な ら ぽ 四 無 礒(86∼89)
ク ・バ ・・一 ル のHE1,HS1,HWIお
う一 重 外 側 の 四 門 の 尊 像(HE2,
よ びHN1を
HS2, HW2, HN2)の
『完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 に 述 べ ら れ た 以 外 の 尊 格 がHE2等 え る こ と は で き な い 。 またHE2等 マ ン ダ ラ で は 第 三 重,図1)に て い る 。 図3に HE3の
四磯 と比 定す る な 比 定 が 不 可能 に な る。
と し て 描 か れ て い る と考
の 四 尊 の も う一 重 外 側(『 完 成 せ る ヨ ー ガ の環 』 の は,パ
ドマ ー ン タ カ等 の 四 人 の 念 怒 尊 が 人 形 で描 か れ
見 る よ うに,HE 1, HE2お
よ びHE3は
一 列 に 並 ん で お り, HE2と
間 に 他 の 尊 格 が 入 る 空 間 的 余 裕 は な い 。 同 様 にHS2とHS3,
よ びHN2とHN3の HE2お
ク ・バ バ ー ル の ー マン ダラ
よびHE3が
HW2とHW3お
間 に も他 の 尊 格 が 入 っ て く る 可 能 性 は な い 。 した が っ て, HEI, 人 形 で 表 現 さ れ て お り,し か も一 列 に 並 ん で い る か ぎ り, HE2は
四 無 磯 の 一 人 と し て の 法 無 磯(86)で
あ る と い うべ き で あ ろ う。 そ れ ゆ え,四
r完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 の 法 界マンダラ
で は 第 二 重 に 存 す る が,バ
ク ・バ ハ ー ル の マ
ン ダ ラ で は 忽 怒 尊 と 同 じ重 す な わ ち 『完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 のマンダラ す る こ と に な る 。 も っ と も 前 に 述 べ た よ うに,バ せ る ヨ ー ガ の 環 』 のマンダラ
無礫 は
の 第 三重 に存
ク ・バ ハ ー ル の マ ン ダ ラで はr完
成
の 第 一 重 と第 二 重 を 合 わ せ て 「第 一 重 」,第 三 重 を 「第
二 重 」 そ し て 第 四 重 を 「第 三 重 」 と し て 描 い た 可 能 性 も な くは な い 。 そ の 場 合 に は, ・・ク ・パ ハ ー ル の 四 無 磯(HE2, る 。 しか し,実
HS2, HW2,
HN2)は
「第 二 重 」 に 存 す る こ と に な
は この 想定 に も無 理 が存 す るの で あ る。
r完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 の マ ン ダ ラ の 第 四 重 に 相 当 す る最 外 輪 の 部 分 に は,護
方神
く よう
(八 方 神)(128∼135),ヒ
ン ド ゥ ー 教 の 神 々 ・九 星(九
八 摺 な ど の 神 々(136∼216)お
八 竜 王 ・八 夜 叉 ・二 十
よ び 四 門 衛 と し て の 四 摂 菩 薩(217∼220)が
成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 の 法 界マンダラ
で は,第
(132∼146,151∼153,157,160∼163)は,牛 ク ・バ ハ ー ル のマンダラ
曜)・
い る。r完
四重 の 最 外 輪 に並 ぶ 神 々 の あ る者 た ち や 孔 雀 な ど の 乗 物 に 乗 っ て い る が,バ
で は 乗 物 に 乗 る 者 は お ら ず,ガ
ナ パ テ ィ(148)以
外 はす べ
て 坐 っ て い る。r完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 お よ び バ ク ・バ ハ ー ル に お い て 最 外 輪 の 神 々 は す べ て 蓮 華 の 上 に 坐 っ て い る 。 因 み に,バ
ク ・パ ハ ー ル のマンダラ
で は,最
外輪の
外 に は 四妃 のみ が蓮 華 の上 に 坐 って い る。 バ ク ・バ ハ ー ル の 境 内 に あ る こ の 法 界マンダラ よ り も古 い に も か か わ ら ず,刻
は,ノ
・バ ハ ー ル や ブ ・バ ハ ー ル の
ま れ た 線 は も っ と も鮮 明 で あ る 。中 尊 の 文 殊, マンダラ 709
国立民族学博物館研究報告 23巻4号
四仏,四 妃,十 六 菩 薩,八 供養 女,八 愈 怒尊,護 方 神 お よび ヒ ソ ドゥー教 の神hな
ど
の 図像 は 図 像 学 的 資料 と して使 用価 値 の 高 い もの で あ る。
4.ノ
・バ ハ ー ル の 法 界 マ ン ダ ラ
ノ ・バ ハ ー ル の 法 界マンダラ 暦1926年)に
は,直 径97cm,真
鍮 製 で あ る 。ネ ワ ー ル 暦1047年(西
製 作 さ れ た と い う銘 が あ る 。 こ のマンダラ
の中 で人 形 の図 像 で描 か れ て
い る 尊 像 の 数 や 位 置 は バ ク ・バ ハ ー ル の も の と 似 て い る 。 ノ ・バ ハ ー ル の マ ン ダ ラ は バ ク ・バ ハ ー ル の そ れ よ り約30年 後 に 製 作 さ れ て お り,ま た こ の 二 つ の 寺 院 は100m ほ ど し か 離 れ て い な い の で,ノ
・バ ハ ー ル のマンダラ
が バ ク ・バ ハ ー ル の そ れ を モ デ
ル に した 可 能 性 も あ る 。 ノ ・パ ハ ー ル のマンダラ
は,図4∼5に
見 る よ うに,四
重 構 造 を 有 して い る。 バ
ク ・パ ハ ー ル のマンダラ
で は 見 られ な か っ た 第 一 重 の 門 も こ の マ ン ダ ラ に は 存 す る。
ノ ・パ ハ ー ル のマンダラ
の 第 一 重 に は 中 央 に 法 界 語 自在 文 殊(1)が
に 四 仏(10,15,20,25)が,そ
の 四 維(中
間 位)に
お り,そ
の 四方
四 仏 そ れ ぞ れ の 妃(30∼33)が
い る 。 第 一 重 の 四 門 を 守 る 四 摂 菩 薩(34∼37)は,小
さ な 門 の み に よ っ て 示 さ れ,各
菩 薩 の 図 像 は 省 略 され て い る 。 第 二 重 に は,十
二 地(38∼49),十
陀 羅 尼(74∼85),四 か し,ノ
二 波 羅 蜜(50∼61),十
無s(86∼89)お
よ び 四 供 養 女(90∼93)が
・バ ハ ー ル の 場 合 は 第 一 重 の 門(NE1,
は ノ ・パ ・・一 ル を 意 味 す る)が
二
い る筈 で あ る。 し
NS I, NW1, NN1)(イ
ニ シ ャル のN
描 か れ て い る ゆ え に そ れ らに は 四 摂 菩 薩(34∼37)が
い る こ と は 確 実 で あ る。な らぽ,ノ に は 四 無 磯(86∼89)が
二 自 在(62∼73),十
・バ ハ ー ル の 第 二 重 の 門(NE2, NS2, NW2, NN2)
い る こ と に な る 。 四 無sは
門 衛 と して の 職 能 を 有 し,そ れ ら
の 図 像 的 表 現 も 門 衛 と して の 四 摂 菩 薩(34∼37)と
よ く似 て い る 。 も っ と もNE2等
の 四 尊 と 『完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 の 法 界 マ ン ダ ラ の 四 無 擬 とは 図 像 学 的 に よ く一 致 す る わ け で は な い 。 と も あ れ,ノ の 法 界マンダラ
・バ ハ ー ル の 法 界 マ ン ダ ラ が 『完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』
と構 成 員 が 同 じ と い う前 提 に 立 て ぽ,NE2等
ざ る を 得 な い 。 し か し,こ
の よ う に 考 え る な ら ぽ,第
の 四 尊 は 四 無 磯 と考 え
三重 の構 成 員 の 比 定 の際 に さ ら
に大 きな 困難 に 出会 うこ とに な る。 ノ ・パ ・・一 ル のマンダラ 蜜 等 の 図 像 は な く て,部
の 第 二 重 の 比 定 に は 別 の 困 難 も存 す る 。 十 二 地,十
屋 の み が 示 さ れ て い る が,一
両 端 は 供 養 女 の 部 屋 で あ る と し て も,十 710
二 波羅
列 十八 の部 屋 が 描 か れ て い る。
二 地 や十 二 波 羅 蜜 等 それ ぞ れ に 十 六 の部 屋 数
立 川 ネ ワー ル法 界 マ ン ダラ図 像 資 料
は 理 に 合 わ な い 。 各 回 廊 に 四 尊 ず つ を 加 え た の か と も 思 わ れ る し,そ
れ ほ ど厳 密 に 部
屋 数 を 数 え な か っ た の か も しれ な い 。 第 三 重 で は,十
六 菩 薩(94∼109),十
怒 尊(llO∼117)お
急 怒 尊(ダ
よ び 八 供 養 女(120∼127)が
シ ャ ・ク ロ ー ダ)の
内 の入 人 の念
人 形 の 図 像 で 表 現 さ れ て い る。 一 般
的 に法 界 マ ンダ ラに 登場 す る尊格 の 図像 が 詳細 かつ 鮮 明に 描 かれ るの は 第 三重 に お い て で あ る が,ス
ヴ ァ ヤ ン ブ ー ナ ー ト仏 塔 の 東 の 法 界マンダラ
三 つ の 法 界マンダラ
を 始 め と して こ こ に 扱 う
の場 合 も この第 三 重 の 諸 尊 の 図像 が 同一 の マ ンダ ラの 他 の重 に較
べ て よ り詳 細 か つ 鮮 明 で あ る 。 ノ ・バ ハ ー ル の マ ン ダ ラ は バ ク ・パ ハ ー ル の 場 合 と 同 様 に,二 ウ シzニ
ー シ ャ チ ャ ク ラ ヴ ァ ル テ ィ ソ(118)と
人 の愈 怒 尊 す な わ ち
ス ソバ ラ ー ジ ャ(119)は
な い 。 『完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 の マ ン ダ ラ で は,急
怒 尊110の
外 側 に マ ン ダ ラ全 体 の
上 方 に 位 置 す る ウ シ ュ ニ ー シ ャ チ ャ ク ラ ヴ ァ ル テ ィ ソ(118)が,急 全 体 の 下 方 に 位 置 す る ス ンバ ラ ー ジ ャ(119)が ル,ノ
・バ ハ ー ル,ブ
の 念 怒 尊(119)は
・バ ハ ー ル の 三 つ のマンダラ
描かれてい
怒 尊112の 外 側 に
い る。 しか し,バ
ク ・バ ハ マンダラ ー
で は 上 方 の 愈 怒 尊(118)と
下方
描 か れ て い な い 。 こ の こ とは ネ ワ ー ル の 他 の マ ン ダ ラ に つ い て も
い い 得 る こ と で あ っ て,十
念 怒 尊 す べ て が 描 か れ る こ と は ネ ワ ー ル の マ ン ダ ラで は ほ
とん どな い。 問 題 は 第 三 重 の 四 方 の 四 門(NE4,
NS4, NW4, NN4)に
は 部 屋 の み が 示 さ れ て お り,
そ の 中 に急 怒 尊 のす が たが 描 か れ て い な い こ とだ。 四 維 に は 急怒 尊 のす が た が人 形 の 図像 に よ って表 現 され て い る。 さ ら に 困 難 な 問 題 は.今 NW3, NN3)の は,い
述 べ た 第 三 重 の 四 門 の そ れ ぞ れ の 内 側 の 四 尊(NE3,
比 定 が ほ と ん ど 不 可 能 な こ とだ 。 バ ク ・バ ・・一 ル のマンダラ
さ さ か 強 引 にNE3等
け で は な い 。 しか し,NE2は
に 相 応 す るHE2等
の場 合 に
を 四 無 磯 と考 え る 可 能 性 も な か っ た わ
明 らか に 四 摂 菩 薩 の 一 人 で あ り, NE3を
とす る わ け に は い か な い 。マンダラ
NS3,
四無磯の一人
の 配 置 図 か ら考 え る な ら ぽ,NE3等
を 葱怒 尊 の
柔 和 な す が た と 想 定 す る こ と も 可 能 か も しれ な い 。 と い う の は,NE3等
の す ぐ外 側
のNE4等
は部 屋 の み が示 され て い るか らだ。 NE4等
そ の 住 人 は そ の 内 側 のNE3等
に 示 さ れ て い る と考 え る の で あ る 。 しか し, NE3等
図 像 は 明 ら か に 念 怒 尊 の そ れ で は な い 。 さ ら に,次 考 察 の 際 に 見 る よ う に,NE4等
に は 部 屋 の み が 示 さ れ て お り, の
の 節 の ブ ・バ ハ ー ル のマンダラ
に あ た る位 置(BE4等,
Bは
の
ブ ・バ ハ ー ル を 意 味 す
る)に
は 人 形 の 図 像 が 描 か れ て い る の で あ る 。 こ の よ う に 考 え て く る と,HE2,
BE3は
一 体 誰 な の か とい う疑 問 が あ ら た め て 生 じて く る の で あ る 。
NE3,
711
国立民族学博物館研究報告 23巻4号 く よう 第 四 重 に は,護 方 神(八 方 神)(128∼135),ヒ ソ ドゥ ー 教 の 神h・ 九 星(九 曜)・
八 竜 王 ・八 凌 亙 ・二 十 八摺 な ど の神 々(136∼216)お
よび 四 門衛 と して の四 摂 菩 薩
(217∼220)が
い る 。 こ の マ ン ダ ラ に お け る 護 方 神 八 尊 の 内,四
(132∼135)の
表 現 方 法 と 四 方 に お け る 四 尊(128∼131)の
維 に お け る 四尊
そ れ とは異 な って い る。
前 者 の 四 尊 は 左 右 の 尊 格 と は 際 立 っ て 異 な る す が た を し て い る が,後 の 尊 格 と ほ と ん ど 同 じ描 き方 で あ る が,こ で あ る 。 こ の よ うに,ノ
者 の 四尊 は左 右
の 形 式 は バ ク ・バ ハ ー ル のマンダラ
と同様
・バ ハ ー ル の マ ン ダ ラ は バ ク ・バ ハ ー ル そ の も の あ る い は バ
ク ・バ ハ ー ル の マ ン ダ ラ の 伝 統 に 従 っ て い る と い え よ う。
5.ブ
・バ ハ ー ル の 法 界マンダラ
バ ク ・バ ハ ー ル の あ る 通 りを 挟 ん で は す 向 か い に ブ ・バ ハ ー ル が あ る 。 ブ ・バ ハ ー ル 本 堂 か ら 数 メ ー トル の 位 置 に 大 き な 銅 製 の 法 界マンダラ(図6∼7)が
あ る。 この
マ ン ダ ラ の 諸 尊 の 図 像 や 位 置 は 特 に ノ ・バ ハ ー ル の も の と似 て い る よ うに 思 わ れ る 。 こ の 寺 院 の 境 内 に 住 む 人 々 に よ れ ば,現 も の で あ り,そ
れ ま で の 古 いマンダラ
在 のマンダラ
あ った 。 古 いマンダラ
は 二 十 数 年 前 に 新 し く作 ら れ た
は 新 しい マ ン ダ ラ の 下 に 残 っ て い る と の こ と で
の 製 作 年 に 関 し て は1945年
の 銘 が 残 っ て い る が,新
しい も の の
製 作 年 は は っ き り しな い 。 ブ ・バ ハ ー ル の マ ン ダ ラ の 古 い も の が ど の よ うな 図 像 を 有 して い た か を 知 る こ と は で き な い が,新
しいマンダラ
や ノ ・パ ハ ー ル のマンダラ
の 製 作 に あ た っ て は 古 い マ ン ダ ラ お よ び ハ ∼ ・パ ハ ー ル も 参 考 に し た と 思 わ れ る 。 ブ ・バ ハ ー ル の 古 い も の も バ
ク ・バ ハ ー ル や ノ ・パ ハ ー ル のマンダラ
よ り新 し い の で あ る 。
プ ・バ ハ ー ル の マ ン ダ ラ は 四 重 構 造 で あ り,第 一 重 の 構 成 は ノ ・バ ハ ー ル の マ ン ダ ラ に よ く 似 て い る 。 中 尊 の 文 殊(1)の (30∼33)が
周 囲 に 四 仏(10,15,20,25)と
お り,第 一 重 の 四 門(BE1,BS1,BW1,BN1,図90∼92参
四 妃 照)は
小 さ く部
屋 の み で 示 され て い る 。 第 二 重 は 一 辺 十 三 の 部 屋 の あ る 四 角 い 回 廊 が 描 か れ て い る 。 こ れ は バ ク ・バ ハ ー ル の 場 合 と 同 様 で あ る。 お そ ら く,十 二 地,十 の 部 屋 を 描 い た の で あ り,四 (BE2, BS2, BW2, BN2)そ
供 養 女(90∼93)は
省 略 され た の で あ る。 第 二 重 の門
れ ぞ れ に 人 形 の 図 像 が あ る 。 そ れ らは 四 無 蕨(86∼89)と
思 わ れ る。 そ れ ら の 図 像 学 的 特 徴 はr完
二 波 羅 蜜等 の た め
成 せ る ヨー ガの 環』 の規 定 と部 分 的 に は一 致
ほう む げ ぎ
す る。 法 無 硬(86)は
鈎 を持 つ が,そ れ に 対 応 す る と思わ れ るBE2も
鈎 を持 つ。 義
む げ し む げ
無 硬(87)は 712
索 を持 つ がBS2も
索 を 持 つ。 詞 無 磯(88)は
錬 を 持 つ がBW2が
錬 を持
立 川 ネ ワ ール 法 界マンダラ 図 像 資 料 ぺん む げ
つ か 否 か は 定 か で は な い 。 弁 無 磯(89)は 位 置 か ら 判 断 し て,BE2,
鈴 を 持 つ がBN2は
BS2, BW2, BN2の
三 叉 戟 を 持 っ て い る。
四 尊 は 四 無 擬 と 思 わ れ る が,『 完 成 せ る
ヨ ー ガ の 環 』 の 規 定 と 一 致 す る と は い い 難 い 。 お そ ら く こ の ブ ・バ ハ ー ル のマンダラ の 製 作 の 段 階 で はr完
成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 に 代 表 され る イ ン ド的 規 定 か ら さ ま ざ ま な
側 面 に お い て 離 れ る よ うに な っ て お り,こ の 四 無 硬 の 表 現 もそ の 一 例 と思 わ れ る 。 第 三 重 で は,十
六 菩 薩,八
供 養 女,十
念 怒 尊 か ら二 人 を 除 い た 八 人 の 念 怒 尊 が 描 か
れ て い る。 第 三重 の 門そ れ ぞ れ に 八 人 の念 怒 尊 が す べ て人 形 の 図像 で 描 かれ てい る こ と は,バ
ク ・バ ハ ー ル と 同 様 で あ る 。 バ ク ・バ ハ ー ル のマンダラ
薩 が 省 略 さ れ て い た が,ブ る 。 そ し て,ブ
で は 第一 重 の四 摂 菩
・バ ハ ー ル の 場 合 は 第 一 重 の 四 摂 菩 薩 の 部 屋 は 示 さ れ て い
・バ ハ ー ル のマンダラ
に も 人 形 の 図 像 が あ る 。 で は,第
で は 第 二 重 の 門(B2)お
よ び 第 三 重 の 門(B4)
二 重 の 門 と第 三 重 の 門 の 間 の 人 形 の 図 像(B3)は
一 体 誰 を 表 現 して い る の で あ ろ うか
。 ネ ワ ー ル 仏 教 徒 は 『完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 に 述
べ られ た 規 定 あ る い は そ れ と 同 じ シ ス テ ム を 法 界 マ ン ダ ラ の 規 定 と して 守 っ て き た 。 しか し,r完
成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 の 規 定 か ら は, B3の
四 尊(BE3,
BS3, BW3, BN3)
を 比 定 す る こ とは で き な い 。 第 三 重 の 門 の 内 側 の 四 尊(H2の とは で き な い 。 一 方,そ て い た 。 で はH2等
四 尊N3の
四 尊, B3の
四 尊)を
四 無 磯 とす る こ
れ ら の 四 尊 の す ぐ外 側 に は 愈 怒 尊 あ る い は そ の 部 屋 が 描 か れ
の 四 尊 は 誰 か と い う問 が,バ
ク,ノ
お よび ブ の 三 寺 院 のマンダラ
に 関 して 問 題 と な っ た の で あ る。 こ の 問 題 の 解 決 の ヒ ソ トは,ス と 思 わ れ る 。こ のマンダラ
ヴ ァヤ ソ ブ ー ナ ー ト仏 塔 の 東 の 法 界マンダラ
で は,第 三 重 の 門 に 忽 怒 尊 が 描 か れ る の は 東 門 の ウ シ ュ ニ ー
シ ャ チ ャ ク ラ ヴ ァル テ ィ ン(118)と
西 門 の ス ンバ ラ ー ジ ャ(119)の
他 の 八 人 は 回 廊 に 描 か れ て い る。 例 え ぽ,(立 に,ウ
川1989:36)の
そ の 内 側(写
真19下)に
トのマンダラ ず,南
の 四 尊 は 元 来,念
真19上)に,葱
い る 。 つ ま り,葱 怒 尊 が 十 六 菩
薩 や 八 供 養 女 と 同 じ列 に 並 ん で い る の で あ る 。 で あ る な ら ぽ,HE2等 等 の 四 尊,BE3等
二 人 の み で あ り,
写 真19に 見 ら れ る よ う
シ ュ ニ ー シ ャ ク チ ャ ク ラ ヴ ァル テ ィ ソ は 第 三 重 の 東 門 の 中(写
怒 尊 ヤ マ ー ン タ カ(110)が
にあ る
の 四 尊, NE3
怒 尊 で あ った可 能 性 が あ る。ス ヴ ァヤ ソ ブ ーナ ー
に あ っ て は 第 三 重 の 南 門 と北 門 の 中 に は 念 怒 尊 の す が た は 描 か れ て お ら
方 を 守 る パ ドマ ー ン タ カ(111)と
北 方 を 守 る ヴ ィ グ ナ ー ソ タ カ(113)と
が回
廊 の 中 に 十 六 菩 薩 と並 ん で 描 か れ て い る 。 愈 怒 尊 は 護 方 神 つ ま り方 角 を 護 る 尊 格 な の で あ り,門 衛 で は な い 。 バ ク,ブ
の 二 寺 院 の マ ン ダ ラ は,四
方 の 念 怒 尊 を 十 六 菩 薩 と 同 列 に 描 き な が ら,な
'
713
国立民族学博物館研究報告 23巻4号 お そ の 上 に 四 方 の 門 の 中 に 急 怒 尊 を 描 い て し ま っ た の だ と推 測 され る 。 ノ ・バ ハ ー ル のマンダラ
で は,第
ハ ー ル のマンダラ
三 重 の 門(N4)に
は 何 も 描 か れ て い な い 。 し た が っ て,ノ
・バ
の 製 作 者 た ち は わ れ わ れ が 扱 っ て き た 問 題 に 気 づ い た た め に ,門 の
中 に 図 像 を 刻 ま な か っ た の か も しれ な い 。 た だ 第 三 重 の 東 門(HE3, 葱 怒 尊 が,ウ
NE4, BE4)と
西 門(HW3,
NW4, BN4)に
描かれている
シ ュ ニ ー シ ャ チ ャ ク ラ ヴ ァル テ ィ ン と ス ソバ ラ ー ジ ャ で な い と は 正 し い
の か と い う疑 問 が 残 る。 しか し,現
在 残 っ て い る 図 像 か ら 推 察 す る か ぎ りで は,そ
二 尊 で は な い だ ろ う と 思 わ れ る 。 一 方,こ
こ で 扱 っ た 三 つ のマンダラ
の
にお け る八 葱怒
尊 の 図 像 が 『完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 の 規 定 と す べ て 一 致 して い る わ け で も な い 。 第 三 重 の 門 の 内 側 に 並 ぶ 問 題 の 四 尊(H2の 形 を 採 っ て お り,三 つ のマンダラ っ て,こ
四 尊, N3の
四 尊, B3の
四 尊)は
菩薩
で は互 い に類 似 したす が た で 描 かれ てい る。 した が
の 四 尊 に 関 す る 何 ら か の 共 通 の 理 解 が あ っ た と思 わ れ る。 しか し,そ
の 菩薩
形 の 四 尊 が は た し て 真 に 忽 怒 尊 の 図 像 で あ る か 否 か は 改 め て 吟 味 され る 必 要 が あ る。 と も あ れ こ れ ら の 三 つ のマンダラ
に 残 さ れ た 図 像 を 尊 格 別 に 整 理 し て い く こ とが 現 時
点 で は 重 要 で あ ろ う。
付 記 本 稿 で 用 い た 写 真 の 内,図56∼96は
写 真 家 横 田憲 治 氏 の撮 影 した もの で あ る。 こ こに 使 用 す
る許 可 を いた だ い た こ と に厚 く御 礼 申 し上 げ た い 。 な お 図1∼55の で あ る。 また 図2,4,6は
写 真 は 立 川 の撮 影 した も の
高 岡秀 鴨 氏(仏 教 資 料 文 庫,名 古 屋)作 製 の拓 本 を使 用 させ て い た
だ い た。 ここに 記 して謝 意 を表 した い 。カトマンドゥ 在 住 のGauntam Ratna Bajracharyya氏
に
は ネ ワー ル語 の銘 文 読解 な どで助 力 を 得 た 。 厚 く御 礼 申 し上 げ る次第 で あ る。 本 稿 は 平 成8∼io年
度 に 行 な わ れ た 国 立 民 族 学 博 物 館 の共 同研 究 「聖性 と世 界 との 関 係 に 関
す る研 究」(代 表 者,立 川)の 成 果 の一 部 で あ る。
注
i
1) カ トマ ン ド ゥ盆 地 の 寺 院 総 覧(Pruscha 寺 院 の 名 称 はHaka
Bahalあ
る い はHakha
l975)で Bahalと
はA/P-39と
番 号づ け られ て い る 。 この
綴 ら れ る が,そ
の発 音 は
「バ ク ・バ ・・一
ル 」 が 近 い 。 パ タ ン 市 に お け る 代 表 的 仏 教 寺 院 の ひ とつ で あ る 。(Pruscha 1975:139)参 照。 2) (Pruscha 1975)で はC/P-52と 番 号 づ け られ て い る 。 こ の 寺 院 の 名 称 はNa Baha豆 あ る い はNah
Baha1と
綴 ら れ る が,そ
照。 3) (Pruscha 1975:141)で
714
の 発 音 は 「ノ ・バ ハ ー ル 」 が 近 い 。(Pruscha
はB/P-44
Bu Bahalと
呼 ぼれ て い る。
1975:140)参
立 川 ネ ワー ル法 界 マ ン ダ ラ図像 資 料
4)
(立 川1989:16)で
マンダラ
は こ の マ ン ダ ラが
「チ ベ ッ ト人 の 手 に な る 」 と 書 い た 。 た しか に こ の
に は チ ベ ッ ト文 字 の 真 言 が 彫 り こ ま れ て い る が,ネ
ワー ル 人 の手 にな る もの で あ る。
ス ヴ ァヤ ン ブ ー ナ ー ト寺 院 で 会 った ネ ワ ー ル 人 よ り 「こ のマンダラ
旧 王 宮 の 南 に あ る ビ ー ル 病 院 の 敷 地 に あ っ た も の が ス ヴ ァ ヤ ン ブ ー ナ ー ト寺 院 の 箋 内 に 移 さ
れ た 」 と 聞 い た(1992年2月)。 こ の 石 製マンダラ が 乗 る 台 は(立 川1989:23)に 見 られ る よ うに レ ソ ガ 作 りの 粗 末 な も の で あ り,台 は 最 近 作 られ た も の で あ る こ とが わ か る 。
5) バ ク,ノ,ブ
l755で
の 三 寺 院 のマンダラ
は も と も と カ トマ ン ド ゥ
の レ プ リカ 標 本 番 号 は そ れ ぞ れMI
l756,MIl754,MI
あ る。
文 献 長 野 泰 彦 ・立 川武 蔵 編 1989 『法界 語 自在 マ ン ダ ラの神 々』(国 立 民 族 学 博 物 館研 究 報 告 別 冊7号)。
Pruscha, Carl 1975 Kathmandu Valley, the preservation of physical environment and cultural heritage, a protective inventry, Vol. 2. Vienna: Anton Schroll & Co. Publisher. 立 川武 蔵 1989 「カ トマ ン ド ゥに お け る法 界 マ ン ダ ラ」 『国 立 民 族 学 博 物 館 研 究 報 告 別 冊7号 S-44Q
』pp.
ns
図1 法 界マンダラDharmadhatu Mandala諸 導配置 a)r完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 第21章 「法 界 マ ン ダ ラ の 章 」 の 配 置 に 従 う。(長 野 ・立 川1989:47)に b)ス
ヴ ァヤ ン ブ ー ナ ー ト仏 塔 東 の 法 界マンダラ
の諸 尊 の 場 合 と同一 の配 置 で あ る。
あ る 図rの
配 置 と同一 で あ る。
図2 バ ク ・バ ハ ー ルHaka Bahalの 法 界 マ ン ダ ラDharmadhatu Mandala バ ク ・バ ハ ー ル の 法 界 マ ン ダ ラ 抜 本(縮 少)マ ン タラ銅 盤 が 凸 状 で あ る ゆ えに 右 上 部 の 切れ が あ る、
図3 バ ク ・バ ハ ー ルHaka Bahalの 法 界 マ ン ダ ラDharmadhatu Mandla諸 尊配置 a)137の 尊 像 は 円 盤(チ ャ ク ラ)を 持 つ の で ヴ ィ シ ュ ヌ,138は 三 叉 戟 を 持 つ の で シ ヴ ァ,139は 三 叉 の 宝 を 持 つ の で,ク ラ フ マ ン で あ ろ う。 b)140∼146は 七 母 神 で あ る 。142は
円 盤 を 持 つ の で ヴ ィ シ ュ ヌ の 妃 ヴ ァ イ シ ュ ナ ヴ ィ ー,141は
は 三 叉 の 宝 を 持 つ の で ク マ ー ラ の パ ー トナ ー で あ る カ ウ マ ー リ ー で あ る 。140の
c)172∼175の4尊
は
『完 成 せ る ヨ ー ガ の 環 』 に よ れ ぽ 同 じ す が た で あ る が,こ
マ ー ラ と 思 わ れ る 。136の
三 叉 戟 を 持 つ の で シ ヴ ァ(ル
ド ラ)の
g)215Bお h)HE1∼4,
こ で は 同 じ す が た の も の は3尊
しか な い 。176は
八 竜 王 で あ る が,こ こ で は7人 の 竜 王 しか い な い 。 二 十 八 宿 の 内 の27の み を 示 す 。 よ び215Cの 名 称 は不 明 であ る。 HS1∼4, HW1∼4, HN1∼4に 関 して は 本 文 参 照 。 お そ ら くHE1,
妃 ル ド ラ ー ニ ー,14?
尊 像 は ブ ラ フ マ ソ の 妃 ブ ラ フ マ ー ニ ー で あ ろ う。
と 図 像 的 に 同 じで は あ り得 な い 。 し た が っ て,172∼175の 内 の1尊 が 省 略 され て い る と 思 わ れ る 。 d)177と178は ヴ ィ ー ナ ー 楽 器 を 持 つ 。178の 位 置 は 図1の 場 合 と 異 な っ て179の 次 と な っ て い る 。 e)180∼187は f)189∼215は
尊像は ブ
HS1,HWI,
HNIは
四 無 擬(86∼89)で
あ ろ う。
ガ ル ダ 鳥 で あ り,172∼175
図4
ノ
・バ ハ ー ルNa
Bahalの
法 界 マ ン ダ ラDharmadhatu
Mandala
図5 ノ ・パ ハ ー ルNa Bahalの 法 界 マ ン ダ ラDharmadhatu Mandala諸 a)136∼139の ヒ ン ド ゥ ー 主 要 神 お よ び140∼146の 七 母 神 の 順 序 は 図1よ り も 図3に 近 い 。 b)177Bの
尊 像 の 名 称 は 不 明 で あ る 。
c)216B,216Cは d)NEI,NS1, e)NE2,
尊配置
図3(バ
ク ・バ ハ ー ル)215B,215Cと
同 様 に 二 十 宿 の 後V'配
NW1,
NNIの
四 尊 は 第 一 重 の 四 門 衛(34∼37)で
NS2, NW2,
NN2の
四 尊 は 四 無 擬(86∼89)で
あ る。
あ る。
、 置 さ れ て い る が,こ
の二 尊 の 名 称 は不 明 で あ る。
図6
ブ ・バ ハ ー ルBu Baha1の
法 界 マ ン ダ ラDharmadhatu
Mandala
図7
法 界 マ ン ダ ラDharmadhatu
Mandala諸
a)BEI,
ブ ・バ ハ ー ルBu Bahalの BS1, BW1, BN1の
四 尊 は 四 門 衛(34∼37)で
あ る。
b)BE2,
BS2, BW2, BN2の
四 尊 は 四無 磯 で あ る。
c)第
四 重 の 最 外 輪 の 図 像(128∼220)は
不 鮮 明 で あ る ゆ え に,こ
尊配置
の 図 で は 番 号 を 省 略 した 。
立 川
ネ ワー ル 法 界 マ ンダ ラ図 像 資 料
図8
バ ク ・バ ハ ー ルHaka
Bahal境
内の法界マ ンダラ
723
国立民 族学博物館研究報告 23巻4号
図9
バ ク ・バ ハ ー ル ・マ ン ダ ラHaka
(写 真 下 部 が 東)
724
Bahal Mandala
ネ ワー ル法 界 マ ン ダ ラ図 像 資 料
図10
バ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal
Mandala
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国立民族学博物館研究報告 23巻4号
726
図11
ハ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
図12
ハ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal Mandala
Bahal
Mandala
立 川
ネ ワ ー ル法 界 マ ン ダ ラ図 像 資料
図13
バ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal Mandala
図14
ハ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal Mandala
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国立民族学博物館研究報告 23巻4号
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図15
ハ ク
・バ ・・一 ル
図16
ハ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal Mandala
Bahal
Mandala
立 川 ネ ワ ー ル法 界 マ ン ダ ラ図 像 資 料
図17
バ ク ・ バ ・・一 ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal
Mandala
図18
ハ ク
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal
Mandala
・バ ハ ー ル
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国立民族学博物館研究報告 23巻4号
図19
730
バ ク ・バ ハ ー ル
・-7ン
ダ ラHaka
Bahal Mandala
立 川 ネ ワ ー ル法 界 マ ン ダ ラ図像 資 料
図2① ハ ク ・バ ・・一 ル
・一 マ ン ダ ラHaka
Bahal Mandala
731
国1/:民族学 博 物 館 研 究 報 告 23巻4号
図21
732
ハ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal
Mandala
● ●
立 川 ネ ワール 法 界 マ ンダ ラ図 像 資 料
図22
バ ク ・ バ ・・一 ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal
Mandala
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図23
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ハ ク ・ バ ・・一 ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal
Mandala
立 川 ネ ワー ル法 界 マ ンダ ラ図 像 資 料
図24
・・ク ・ バ ハ ー ル.-aン
ダ ラHaka
Bahal Mandala
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国立民族学 博物館研究報告 23巻4号
図25
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バ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal Mandala
立 川 ネ ワー ル法 界 マ ンダ ラ図 像 資 料
図26
バ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal
Mandala
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図27
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ハ ク ・バ ハ ー ル
・マ ン ダ ラHaka
Bahal Mandala
立 川
ネ ワー ル法 界 マ ン ダラ 図像 資 料
図28
ハ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal Mandala
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図29
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バ ク ・バ ハ ー ル
・マ ン ダ ラHaka
Bahal
Mandala
立 川 ネ ワ ー ル法 界 マ ン ダラ 図像 資 料
図30
ハ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal Mandala
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図31
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バ ク ・ バ ハ ー ル ・マンダラHaka
Bahal Mandala
立 川 ネ ワー ル法 界 マ ンダ ラ図 像 資 料
図32
ハ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
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図33
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バ ク ・バ ハ ー ル
・ マ ン ダ ラHaka
Bahal
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立 川 ネ ワー ル法 界 マ ンダ ラ 図像 資 料
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ハ ク ・バ ハ ー ル
・マンダラHaka
Bahal
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図35
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・ マ ン ダ ラHaka
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立 川 ネ ワー ル法 界 マ ン ダ ラ図 像 資 料
図36
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・マンダラHaka
Bahal
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ハ ク ・パ ・・一 ・ レ ・ マ ン ダ ラHaka
Bahal
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